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緩く結んだネクタイに、だらしなく垂らしたシャツの裾。
まぁ、それはいつものことだからいいとして。
「恭ちゃん、そんなに睨むもんじゃありません」
その目つき、やめようか。残念ながら、全く怖くないよ恭平。
生まれたての小鹿が、プルプル震えながら助けを求めてるみたいなんだ。
恭平とのやりとりを見ていた千明先輩は、拍子抜けしたように顔の緊張を解いてわたしの顔を覗きこむ。
「ひよこちゃんの知り合い?」
ああ、もう。何で来ちゃったの、恭平のバカ。まだ睨んでるし。
「弟です。弟の、恭平です」
消え入りそうな声で紹介すると、へぇーと感歎の声を漏らした。
「弟くんかぁー。はじめまして! 川村千明です、よろしくねっ」
ボールド並みに柔軟性のある先輩は、すぐに人懐っこい笑顔を恭平に向ける。
お願い、恭ちゃん。大人しく自己紹介してよね!
先輩にバレないように必死に念を送ると、その視線を感じ取ったらしい恭平は、ふてぶてしい顔のまま小さく頭を下げた。
「どうも」
それだけ!? 千明先輩がこんなにフレンドリーに笑顔で自己紹介してるっていうのに、どうもの一言で終わり!?
「す、すみません! 恭平もちょっと人見知りっていうか……カッコつけたいお年頃みたいで!」
慌ててフォローしたものの、これは、さすがの先輩もムカッとしちゃうんじゃないかと思ったら、体中から嫌な汗が吹き出てる気分。
だけど、ここで普通の反応をしないのが、千明先輩だった。
「すげー高校生若っけー! なんかフレッシュ! かわいーなー。あれだね、ひよこちゃんとは似てない姉弟なんだね」
一生懸命大人ぶってる恭平の努力虚しく、まるで余裕の表情で無邪気に近寄っていく。
「あの、せんぱ……」
嫌な予感がして引き止めようとしたけれど、遅かった。
伸ばそうとした先輩の手を振り払った恭平が、悔しげに顔を歪ませる。
「……俺たち、血が繋がってませんから」
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