憑く光

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 たちまち、雨は本降りに変わった。  遮られた木の葉をも通す大きな粒は、まるで桶から撒いたようだ。  このままでは薪が濡れてしまう。  タクは走り、集落に向かった。  が、薪を濡らさないように集落へ向かうのは無理だ。  そう判断したタクは、仕方ないと道を変えて再び走り出す。  確か、この先に根の大きく張った松があった筈だ。  土手に生えたその松の根のうろでなら、しばらく雨を凌げる。  そう思ったタクだったが…… 「……………………」  土手と根の間の筒状に空いた広い穴に、先程の妖怪が座っていた。  妖怪は狐の面を一度タクに向けるが、先程のように長くみつめる事はなく、すぐにその顔を降ろした。  タクは何故だかその態度が気に入らなかった。  意地になったタクは、松の根の下に入り、わざと勢い良く籠を降ろした。  その籠で妖怪と隔てるようにして、タクは籠の横に座り込んだ。 「……お前、村では妖怪に近付くなと教えられなかったか」  男性にしては高く、女性にしては低い、なんとも不思議な声で妖怪は聞いた。 「お前こそ、俺を喰わないのかよ!」  膝を抱えたまま、タクは聞く。  そんなタクに、妖怪も松の根の奥から雨を伺いながら応えた。 「お前のような餓鬼、喰った所でなんの力も手に入らない。それに、全ての妖怪が人を喰うと思ったら大間違いだ」 「……そうかよ」 思いのほかよく喋る妖怪だ、とタクは思った。 そこで、タクはふと思った。 「お前、本当に妖怪なのか」 それを聞くと、妖怪は「ふん」と鼻を鳴らした。 「おかしな事を。どうしてそんな事が気になるんだ?」 妖怪は、面の奥にある目だけをタクに向ける。 タクも、同じく目だけを狐の面に向けて言った。 「俺は、妖怪なんて見た事がない。だから、もっと熊や本当に鬼みたいなもんだと思ってた。だけど、お前は見た所人に見える」 「お前を化かして、姿を人に見せかけているだけかもしれんぞ?」 「化かすくらいなら、もう俺を襲ってるだろ」 「なる程、面白い餓鬼だ」 含み笑いをしつつ妖怪は続ける。 「私は正真正銘、間違いなく妖怪だ。人は食べんがな」 「そうか。なら安心だ」  タクも少し笑いながら返した。  なんの面白みもなくとも、どういう訳か胸の底から小さな笑いが込み上げて来た。
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