憑く光

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 タクが、もう一度妖怪が手に持つその石を見た時、それまでに感じていた興奮、感動は全て消え失せていた。  死よりもずっと率直な、ただ純粋な恐怖が、胸の底から溢れ出して来た。  全身に、冷たい汗をかく。  そのまま思わず目を逸らしてしまった。  タクは、それ以上その石を見て居られなかった。  徐に、妖怪は話の続きをする。 「こいつは、普通のアヤカシとは違う。本来アヤカシというのは人の目に見えない程に微弱な存在だ。だがこいつらは違う。実体を持ち、人の目にも見える。それらのアヤカシは非常に強い影響力を持ち、人にすら憑く。いや、こいつはもっと質が悪い。本来自然にのみ与える影響を、こいつは人に直接与えている。並大抵なアヤカシじゃない」 妖怪はキスケの横に石を置きながら続けた。 「力の強いアヤカシが居ると、そこに弱いアヤカシも集まって来る。力の弱いアヤカシも、こぞって集まれば天災と呼ばれる程の脅威になる。この山で頻繁に起きる土砂崩れは、それが原因だ」 「じゃあ……母さんは」 「……………………」  妖怪はそれ以上何も言わなかった。 「くっ……」  その時、タクの中で何かが弾けた。  胸から込み上げる思いが、目蓋からとめどなく溢れ、地に落ちる。  タクは叫び声を上げてその場に崩れ落ちた。  妖怪はそんなタクをしばらく見守っていたが、いつの間にか家を出て行っていた。
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