憑く光

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「……おお、タク」  その時だった。かすれるような声をタクは耳にした。 「父ちゃん?」  タクは泣き腫らして膨れた目蓋を、キスケの部屋の方へと向けた。 見れば、動けなくなったキスケが首だけを向けていた。 慌ててタクはキスケへ寄り添う。 「父ちゃん……」 キスケに触れようとしたタクだったが、先程の妖怪の言葉を思い出し、上げた手を膝へと戻した。 「ごめんな……もうお前の為に働けそうにねぇ」 「何言ってんだよ。俺が働ければそれでいいだろ?」 「子供に食わせてもらう親がどこにいるよ……」  弱々しい声ながら、キスケは笑顔を見せた。 「ああ……でも、その必要も無いかもしれねぇな」 「そんな訳ないだろ? あんたあんなに飯食うのに、食べずに居られるのかよ」 「……これからは、お前が食べる分だけでいいさ」  堪えきれず、タクの涙が床に落ちた。 「そんな事言うなって、この前も、一度フカの鰭を食べてみたいとか言ってただろ? 食わせてやるから、体も治してやるから、そんな事言うなよ」 「そりゃあ……贅沢ってもんだ」 「いいだろ? たった一度の贅沢くらい。だから、死なないでくれよ……」  タクの言葉に、キスケは反応を示さなかった。  ただ、タクを真っ直ぐに見つめていた。  タクはそれを見つめ返す事が出来なかった。 視線を落として、ただ落ちて行く涙を見つめていた。 「……タク」  そこへ徐にキスケが口を開いた。 「……お前が生きてるだけで……十分な贅沢だ」 消え入りそうな程に弱々しい声で、キスケは最後に一言告げた。 「……ありがとうな」
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