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「時間が無い。着いて来い」
そう告げて、妖怪は早足で歩き出した。
タクは慌てて立ち上がり、言われるがまま妖怪に着いて行った。
見慣れた筈の村が、一瞬で別の世界に変わってしまった。
目に焼き付いた村の景色は、今や面影しか残っていない。
横切る、固まって動かない人々。
もし生きていたならば、今や自分を責め立てていただろう。
しかし、もう自分を咎めてくれる人は一人もいない。
流されていた感情が、再び自分の流れに戻るのをタクは感じた。
溢れ出す自責の念。悔やみきれない後悔。
タクの目からは涙が溢れ始めた。
「あまり自分を責め過ぎるな」
タクの涙に気が付いた妖怪は、優しく告げた。
「してしまった事を悔やみ続けても何も変わらない。お前は涙を流す事が出来ればそれでいいんだ。それから先は、背負って生きればそれでいい」
胸に響くその言葉に、タクは涙を呑んで頷いた。
二人はそのまま、村から少し離れた丘へとたどり着いた。
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