憑く光

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 その後、キスケはみるみる内におかしくなっていった。  あれほどの大飯喰らいが、どんどん食を細くして行き、最後には部屋に籠もったまま出て来なくなってしまった。 「父ちゃん。今日も山行かないんかい?」  扉越しにタクは聞いた。  しかしタクの言葉にキスケは「ああ」と、精気のない生返事で返して来る。  タクはそれ以上、キスケに何も言わなかった。  そのまま、キスケがいつも使っている枝木を集める籠を背負い、家を出た。 その時だった。  目の前を、妙ななりをした人物が歩いていた。  全身を黒い布で被い、狐の面をしたその人物は、どうやら山の方へ向かっているらしい。  ちょうど、タクが薪を拾いに行こうとしていた山と同じ方だ。  と、向かいからひそひそと何かが聞こえて来た。  見れば、向かいに住んでいる中年の女性と、その隣に住んでいる三十路の女性が声を潜めながら、狐の面の人物についてなにか言っているようだった。 「どうかしたんですか?」  タクは二人のもとに向かい、話を聞いた。 「タクちゃん、あの人には気を付けなさい?」  三十路の女性がそう言って来た。  続けて、中年の女性が話す。 「あれは妖怪よ。気を付けないと、食べられるわよ」 「あれが、妖怪?」  タクは、まだ遠くに見える黒衣を再び見つめた。  妖怪。その名は皆に広く知られていた。  闇に生き、人の影に潜む鬼だと。  人の姿をしていても、決して心を許してはいけない。  この集落では、皆が子供の頃からずっとそう教え伝えられて来た。  しかしタクがその実物を見るのは初めてだった。  確かに人にしては物々しい、近付き難い雰囲気を醸し出していた。  どことなく重いような、寄せ付けないような空気を。
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