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タクはしばらく歩いた。
すると、その先で森が開けていた。
だが同時に、その先に道はなかった。
大きく削れた山道。
削られた山肌から、若い芽や苔が点々としている。
「……………………」
タクは籠を降ろし、削れた山道の前に膝を抱えるようにして座り込んだ。
(母さん……)
見渡す視界の中に、タクの母の姿は無い。
何度見ても、何度繰り返してもそれは同じだった。
タクの母キヨはその日、タクと一緒にこうして山に居た。
今はないその山道の先には、タクの大好きな薔薇苺があった。
梅雨明け、キヨとタクは早速薔薇苺を探しに来ていた。
しかしその時だった。
その時の事は、一瞬ながらよく覚えている。
パキパキと、枝が何本か折れるような音がした。
次の瞬間、タクの目の前に居たキヨが山道ごと流された。
タクは叫んだ。
だが、タクも流されそうになり、キヨを追う事が出来なかった。
キヨはそのまま、大量の土砂に呑まれて行った。
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