3人が本棚に入れています
本棚に追加
タクは膝を強く抱き、顔を伏せた。
思わず涙が滲む。
やるせない気持ちが、行き場のない気持ちが溢れ出しそうになる。
「母さん……」
情けなくも、そう口に出してしまった。
その時わっと強い風が吹きつけた。
木々が揺れ、青い葉が散る。
ハッと顔を上げタクは振り返った。
そこには先程見た妖怪がいた。
狐の面のその奥の二つの光は、真っ直ぐにタクを見下ろしていた。
ここには誰も居ない。
襲われれば、助けを呼べない。
間違いなく喰われる。
タクは籠に差し込んでいた鉈に手をかけた。
鉈に巻いた布を取っ払い、狐の妖怪へと向ける。
妖怪は怯む様子を見せない。
その度量に、逆にタクが物怖じしてしまう。
しばらく二人は睨み合っていた。
しかし……
「?」
妖怪は、踵を返して再び歩き始めた。
「おい!」
声を上げるが、妖怪はそのまま森の奥へと消えて行った。
と、その時、タクの頭に何かが落ちた。
「?」
タクは顔を上げる。
すると次には、見上げた顔の頬に、冷たいものが落ちる。
空が、黒い雲に覆われていた。
「まずい!!」
タクは籠を背負い、慌てて走り出した。
最初のコメントを投稿しよう!