21:向日葵畑【最終話】

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子供が出来たらしい事を、柏木に電話で知らせた時、彼は何も言わずにただ「おめでとう」と言ってくれた。 藍が妊娠した事自体が、奇跡の部類に入るのだ。その子供が健康体で無事生まれる保証は、何処にもなかった。 「産婦人科の医師を紹介するよ。私の大学の同期の女医なんだが……。ちょっと、変わった女性だが、腕も確かだし信用出来る人間だよ」 柏木が笑いを含んだ声で紹介してくれた『水口先生』は、美人でユニークな女医さんだった。 藍は何かと、彼女に相談に乗って貰っている。 「あのね、昔、柏木先生に迫った事があったんですって」 内緒話をするように拓郎の耳元に唇を寄せ、藍が楽しそうに話し始めたが、あの柏木の恋バナなど想像できない拓郎は、一瞬誰の話だろうと目をしばたたかせた。 「えっ…… 誰が? 誰に?」 「水口先生が、柏木先生に!」 くすくす笑いが止まらない藍に、拓郎は大げさに目を丸めてみせる。
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