はじまり

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「えっと…お兄ちゃん、誰?」 病室に入って、少女からの第一声はこれだった。 幸い少女は頭をぶつけて気を失っていただけで、かすり傷程度だったらしい。 ただ念のため入院しているらしい。 俺は自己紹介をすべく、声を出そうとした。 しかし、それより先に少女が尋ねてきた。 「あ、もしかして、るみのこと"たすけてくれた人"?」 「え………」 「でも、よかったぁ。たすけてくれた人がおケガしてたら、どうしようと思ってたんだ」 瞬間、ガラスが消え去った。 世界がリアルに感じられた。 そして、思った。 この子に背負わせてはいけない。 翼の死を知られてはいけない。 もう、体が勝手に動いていた。 「お兄ちゃん!?」 気づけば少女を抱きしめいた。 「よかった………ホントによかった」 「お兄ちゃん………」 「よかった………ぅぅ………よかった…ぅぅ」 「お兄ちゃん、泣いてるの? かなしいことがあったの?」 涙が止まらなかった。 使命感と喪失感の狭間で心が壊れてしまいそうだった。 だけど。 それでも。 「………そうじゃないよ。君を助けれたから………嬉しくて泣いちゃったんだ」 「やっぱり、"お兄ちゃんが"たすけてくれたんだね」 俺は翼の存在を…消した。
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