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「ねぇ、コウヤさん。なんだかあなたとは、生まれ変わっても一緒な気がしますわ。腐れ縁ですかね。」
少女は凛とした表情のまま微笑み、長い黒髪が風になびいている。
桜の花びらが舞って、春の香りがした。
「かもな。」
眩しい水辺の光が少年の心をくすぐる。
横目で彼女を見るコウヤは、まさに思春期の少年だった。
時は流れ、コウヤは80歳になった。
今年から始まった、画期的な制度、転生プログラム。
日本中から、80歳の人々が集まってきているのだ。
コウヤ達夫婦も参加している。
科学者から転生の受け入れ先は親族はいけないと説明をされた。
なんでも、昔の記憶に関係あるものに接触するのは良くないのだそうだ。
このプログラムは文字通り転生をするものなのだ。
生まれ変わった人々は、別の人間として新たな生を歩む。
コウヤの隣で妻が、若かりし頃の話を語りかけてきた。
「腐れ縁か…そういうとそんな話もした気がするな。」
コウヤは妻の昔話に懐かしい思い出を噛み締めた。
可憐な少女は、思い出の中で透明な水辺を一層輝かせる笑顔を見せている。
目の前の大きな扉が音を立てて開く。
ここから先は新しい世界。
コウヤは笑って、約60年連れ添った妻に手を振る。
「また会えますよね。」
彼女はコウヤの手を握った。
暖かい手だった。
「あぁ、生まれ変わっても。一緒になろう」
コウヤの目には、希望の光が宿っていた。
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