Scapegoat

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豪奢な分厚い本が並ぶ本棚。 どこかのオフィスだろうか。 高級デスクに座る白衣の男は、パソコンでニュースを見ていた。 転生人のテロか!? ニュースキャスターは怒りを押さえきれない目でニュースを告げる。 とにかく日本は大混乱だ。 出来過ぎた衝撃の映像が流れる。 あらかじめ予行練習されていたかの様に、違和感が無い良いアングルで、爆発する少年が写っている。 名前こそ報道されていないが、田中博之は日本中の視線を集めることとなった。 まさしく、転生人への恨みを一身に受ける生け贄とでも言おうか。 博は、ゴホゴホと掠れた咳をした。 ドアがノックされて、若い研究員が入って来た。 「主任…ご無事でしたか。てっきり首都の爆発に巻き込まれたものと思いました。」 博は咳を手で抑えながら、眼鏡の奥底を光らせる。 「大丈夫、全て予定通りだ。アレはどうなってる?」 若者は、手に持っていた資料を手渡した。 《スフィア試作機》 太字のタイトルから下をざっと眺めた博は満足げに頷いた。 「よし、良くやった。 君の研究の成果が出たな。」 主任の言葉に、若者の表情が花開く。 「あっ、ありがとうございます!」 感極まった声が裏返っている。 同時に、机の上にあった麦茶のグラスが派手に割れた。 博は眉をひそめた。 「えっ!?」 若者がふ抜けた声を上げる。 「あぁ…気にするな。 もう戻って良いぞ。」 戸惑いつつも退室する若手を目で追い、博は腕を組んだ。 …まずいな。 感染力が強すぎたか。 ガラリと開けた引き出しの中には、自分に打った注射器が無造作に転がっていた。
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