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「お、お疲れ、様っ」
「うん、ありがとう」
午後六時、ちょっと過ぎ。
大体の部活動が終了し、ちらほらと玄関で多数の生徒が靴を履き替えている。
この二人も当然、その例外ではなかった。
「それにしても最近は暑いよな……大丈夫?」
「ん、私はへーきっ」
「うん、よしよし」
黒縁のメガネに、落ち着いた長髪。優しそうで整った顔立ち。
そんな彼に、こうして今みたいに頭を優しくなでられるのが、ソラの至福の時。
「あ、う、うん……っ」
真っ赤な両頬を両手で抑え、気持ちを落ち着けようと試みてみるのだが、やはり胸の鼓動は収まらない。
この純然たる苛烈な拍動は、誰にも止められる物などではない。
「それじゃあ帰ろうか。随分日は長くなってきたけど、まだまだ物騒な世の中だからね」
と、何の気無しに彼女の左手を右手で引っ張る。
彼が一歩進めば、彼女は二歩進む。それが二人の歩幅。
「うん……えへへ」
彼はゆっくりと歩く。
彼女は、足速に歩く。
それで初めて、ちょうどいい。
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