貴志と達也

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「あ、じゃあさ、俺の店手伝わない?」 「店?お前店なんか持ってんの?」 達也が店を持っているなんて初耳だった。 バイトで知り合った仲だが、貴志は達也とはかなり仲の良い方だと思っていた。 「屋台だよ、屋台。店なんか持ってたらファミレスでバイトなんかしねーよ。」 屋台と知って、貴志は少しホッとした。 そして、軽く冗談を交えた言い方をした達也は貴志に空気を悪くしないよう気を使っているのだろう。 それにしても、そんなことまでして何故自分を誘うのかと貴志は疑問に思った。 「そうだな。で、何を売るんだ?りんご飴?」 休憩室の机に頬杖をつきながら、貴志が達也に聞くと、先程まで座っていた達也が前の席に座って来た。 「いや、かき氷。」 「まあ、お前らしい選択だな。」 「どういう意味だよ、それ。」 「夏だから暑いのは嫌な上、コストの低そうなもの。」 「ひでぇなー。最近の氷は高いんだぜ?」 「そうなのか?」 「綺麗な水を使えばな。あ、言っとくけど俺はちゃんとしたものを使うぞ。」 「そうでなきゃ俺は手伝わないつもりだったよ。」 「お、じゃあ手伝ってくれんだな!」 やっと達也が明るい笑顔を見せた。 ――そんなに気を遣わなくてもいいのにな。 そう思った貴志の表情は少し悲しそうだったが、微笑んでいるようにも見えた。 「てか、去年も俺、かき氷売ってたんだけど!」 達也にそう言われ、貴志は思い出した。 去年、知らない女の子にかき氷をすすめたことを。 「そういえばそうだったな。」 「あとかき氷に綺麗な水を使ってるとかも去年話したぞ?」 「うん、覚えてる覚えてる。」 そこで達也はハッとしたように話をやめた。 「悪い。去年の話なんかしてしまって…。」 「…俺、そんなに凹んでるように見える?」 「いや…だってお前、あれから彼女いねえから。」 「それだけの理由かよ。俺はさ、もう大丈夫だから、いらない気は使うな。」 「…わかった。じゃあ店よろしくな!」
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