prologue

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 その腕にためらい傷はなかった。  もっと早く気付くべきだった。すでに一時間近く関越を走っている。確認を怠った自分自身に苛立ちを隠せず、藤木真二は運転席のシートを蹴飛ばした。足元に転がっている少女が喚き立てた。手足を縛り、口をテープで塞いである。 「お前じゃなかった。別人だったんだ」  少女の喉がゴクリと動く。  真二は窓外をみた。江原が戻ったらただでは済まない。間違えましたでは済まないのだ。身代金誘拐。金にならない女をさらってくるほど馬鹿げたことはない。  迷っている時間はなかった。真二は後部座席から運転席に移った。トイレから出てきた江原が煙草に火を点けている。真二は車を出した。
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