本当の俺はどこ

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    気付いてる、気付いてるよ。それくらい。こんな手紙を寄越さなくても、こんな半端に貴方が香る記号の羅列を残さなくても。 「本当に、律儀ですよね。こういう時だけ」  気付いてるよ。  二人きりの時だけの呼び方を、貴方は口にしなくなった。  左手の薬指、地味な銀色が消えて貴方の指に細い窪んだ悲しい跡。  気付いてる。 「じゃあ返さなくちゃ」  宛先は、通いなれたあんたの殺風景な部屋。  腐らないように、保冷剤も添えて。 「いたくて痛くて、しんじゃいたいよ」  覚悟は出来てたってのに。  ヒダリテノクスリユビ (もう、いらないからあなたにかえします)  
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