幸、屍となる!

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 満員電車というものは何故ああまでも不快な場所なのだろうか。  赤の他人と肌と肌が触れ合う時点でもう我慢できない。だが、それに加えてあの圧死しそうな息苦しさは如何ともしがたい。  そんな場所で堂々と立ったまま寝ているある意味凄い青年がいた。年の頃は二十代前半といった所だろうか。スーツ姿ではあるが、ネクタイが曲がっていたりとずぼらな様子が伺う事ができる。  何よりも誇るべき事はその所行である。巧く体を支え立った状態で眠っているのだ。  周りに佇む皆が一様に同じ事を思っただろう。  器用だな。と  そんなアクロバティックな眠り方を披露している青年は微動だにせずただ眠るだけであった。  彼の安眠は此が最後になるという事はまだこの時は知る由もなかった。
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