三十、パンドラ

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「…………ごめんなさい。」 それでも顔色の変わらない土方の瞳を直視する勇気はなくて、沖田は絞り出した単語の無力さを知った。 案の定土方は無感情に言った。 「…何に対する謝罪なんだ?」 布団の端を掴む。 何に対する謝罪? 「そんな運のねぇ病気になったことか?俺らに黙っていたことか?おひいを巻き込んで、俺らを騙していたことか?」 「違う、騙してなんか……!」 土方の真剣な双眸に、沖田は息をのむ。 騙してなんか、ない。 ないはずなのに、土方さんの目が、騙されたと言っている。 騙していた? この人を? 「俺はお前とおひいを信じていた。昔から身体がしっくりしなくて、具合が悪くても我慢しちまうお前の無茶は知っていたし、お前も俺を知っていたはずだろう。いつだって刀みてぇに命に冷静なおひいが、感情的になるなんて思いもしなかった。勝手に信頼して、思い込んでいた俺の目の節穴もいいところだが、俺はお前を信じていた。」 「……騙すつもりはなかったんです。」 「じゃあ何故言わなかった?」 「それは…。」 「心配させるから言えなかったか?江戸に帰されると思ったのか?刀を持たせてもらえなくなると思ったのか?」
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