一、法医術師と死

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丁寧に手入れされた夏の賑わう京の町並みは、その女性にとっては少し居心地の悪いものだった。 華やかで美しくて、着飾った潔癖なものはその眼には慣れない。 不安と嫌悪を喉元にかき抱きつつも、女性は歩を進める。 陽射は大層柔らかで、頬を撫でる風は緑の匂いと饅頭の匂いとが混ざっていた。 それに気をとられていると、ふとした隙に人波に溺れそうになる。 が、すかさず傍らにいた長身の男がつまらなそうに彼女の腕をひいた。 「どこへ行く。」 男は深く笠を被ったまま、呆れたように言う。 覗く双眸にはそのまんまの心中が滲んでいて、頼むからフラフラ歩くな、と言わん許りである。 女性は大きな瞳に涙を滲ませて付き人を見上げた。 その様子は幼子のようで、純粋に庇護欲をかりたてる意味合いの代物であったが、男はひどく冷静にそれを見やる。 「餓鬼じゃあるめぇし、いい加減人込みに慣れろ。」 「だって怖いんだもん。しかも今京はすごく治安が悪いでしょ?あとね、お腹すいた。」 「一つ一つつっこんでやるよ。治安が悪いのを知っててきたんだろ。むしろ治安が悪いから来たんだ。」 男は腰の刀の柄先を指先でつつきながら言う。 もう片方の手は、幼顔の女性の腕をしっかりと掴んでいた。 「腹が減ったは後にしろ。もうすぐつくんだから、そしたら馳走くらいしてくれんだろ。」 からからと楽しそうな音をたてる店棚の並びを見ながら男はぶっきらぼうに続ける。
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