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土方は遺体の顔を眺める。
苦悶の表情はなく、だが穏やかとも言えない。
こんなにじっくりと遺体を眺めたことなど、自分の両親が死んだ時以来のことだった。
しかし今回は赤の他人の、50半ばを過ぎた男の死体だ。
死人から放たれる独特の臭気と赤には気が滅入るが、しかしひいのてきぱきとした検死能力に圧倒されている方が大きかった。
見たこともない手腕と聞いたことのない単語は、未知の世界の代物だ。
挙げ句、頭蓋骨をあけるときたもんだ。
並大抵の話じゃないことを、さらりと言うのはそれが本物だからだ。
「土方副長、沖田さん大丈夫でしょうか。」
適宜遺体の体位を変えるのを手伝いながら、黙って側に控えていた晋太郎がふと土方に聞いた。
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