0人が本棚に入れています
本棚に追加
満月が照らす明るい夜、人気のない空き地、ろくに手入れもされず茫々に生えた草が緩やかな風に踊る中で、ひとりの少年がいた。
少年は刀の納まった鞘を右手に握りしめたまま、高ぶる闘気を沈め、静かに人を待っていた。
オオイシゴウジ
少年の名は大石轟児。近隣の高校に通う学生でありながら、身長が170センチを越える大男だ。
剣術道場で鍛練しており、線の細い方ではない。
彼が待ち構えているのは、ひとりの剣士。一方的に挑戦状を叩きつけ、返事も聞かずに当日を向かえた、果たし合いの相手である。
(かつて神技と謳われた朱閃流。どんな技が飛び出すか楽しみだ)
朱閃流居合――大石らが住む地域で、かつて無敗を誇った剣士が創始した古流剣術である。
その無敗の剣を、現代まで脈々と受け継ぐ者がいた。
ツルギサヤ
名は鶴姫小夜。大石と同じ高校に通い、つい先日顔を合わせた同級生で――
「大石さん……ですよね。お待たせしました」
今、大石の前に現れた少女である。
最初のコメントを投稿しよう!