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ツルギサヤ
鶴姫小夜。小袖と朱袴を身に纏い、腰の帯に一本の刀を差した和装。背中まで伸びる長い黒髪が、よく似合っている。
大石から見て、目の前の袴姿の少女は小柄だった。背丈は160センチ足らず、体格も女性らしく柔らかいラインが見て取れる。
だがその鋭い目を見れば、少女が決して侮ってはならない存在だとわかる。己の技を試したいと渇望する、現代に生きる剣士特有の強い光が宿っていた。
「突然、呼び出してすまない。だが、来てくれたってことは、返事は良い方に考えて構わないんだな?」
あらためて問い直す大石。慎重というよりは、やや気弱なところがあるのだ。
今回の他流試合への挑戦の目的のひとつは、その克服のためであると言ってもいい。
そんな大石の事情などつゆ知らず、丁寧な口調で応じる小夜。
「はい。お相手務めさせて頂きます」
そう言って軽く一礼する。丁寧だが、視線は大石から逸らさず、相手の奇襲にいつでも応じられる、隙のない姿勢を保つ。
頭を上げると、小夜はやや右半身になり、腰を落としていた。両手は自然と腰の刀へ、左手は鞘を握って鯉口を切り、右手は柄に軽く添えられていた。
(やはり居合か)
居合とは刀を鞘に納めた状態から、いかにして相対する者が既に構えている剣に打ち勝つか、を追求した剣術である。
朱閃流は居合の流派と知っていたため、驚きはしない。そして居合と戦うための対策も用意してある。
(勝てる!)
大石は余裕を持ち、しかし油断はせず、左に持ち替えた鞘から得物を抜き、頭上高くかかげた。
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