第一話 ツルギの少女

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 じりじりと足を這わせ間合を詰めていく大石。しかし剣は繰り出さず、小夜が仕掛けてくるのを待つ。  鞘に納めた刀が先手を取ったとき、如何な軌道を描いて剣が放たれるかは、定かではない。しかし、大石はこの点においても、不利だとは微塵も感じてはいなかった。 (俺には轟天流の剣が、そして足がある!)  轟天流『牛歩』の踏み込みは、独特の異常とも言える思想から生み出される。その思想とは、極端に言えば、 「首を落とされなければ死にはしない」  ……である。  首より上を狙う剣以外は完全に無視し、真正面から切り落とす一刀で仕留めるのだ。  首を狙う剣が来れば、薙ぎ払うように払い除け、構えを左右逆転し右肩口に切り落とす。  当然だが、胴とて斬られれば人は死ぬ。この戦闘理論は、医学に無知であった当時の人間だからこそ唱えられ、信望する者も現れたわけで、出鱈目もいいところである。  しかし、こう割り切ってしまえば、自然と怯えは起こらず、胴を狙う剣が己に届く前に、相手の首が跳んでいるのだ。  むろん、その考えは流派の原点で、腕を狙われた場合にどうするか、などの創意工夫が加えられ、今の轟天流が存在するのである。  大石はそういう風に、己の師から聞いていた。そして信じていた。轟天流の戦闘理論をもってすれば、無敗の剣にも決して劣りはしない、と。  己に致命的なミスさえ無ければ、だ。
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