第一話 ツルギの少女

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 相手の狙いは八双に構えた際に前面に突き出される左肘。左肘がこの構えの弱点であるのは当然。ならば対策も万全に練られている。  大石は拳を頭上にやり、構えを八双から上段に変化させた。即座に、左腕を逃がすと共に反撃の体勢が完成する。  直後―― 「ヤッ!」  小夜が上体を起こすのと共に、目の前をひとすじの銀光が疾った。  大石はその剣速に目を疑った。白刃が風を巻いて天へと登る。その迅さは、まさに雷であった。  服の袖が裂ける、しかし腕には達していない。 (もらった!)  小夜が剣を振り切るよりも早く、真っ向から唐竹割りに己が一撃を叩き落とす。  見事に相手の剣を透かした直後、いや透かすと同時の仕掛けである。完璧な後の先だ。  必殺必中の拍子で振り下ろされる大石の剛剣。狙うは目の前にさらされた少女の脳天。 (……目の前?)  それは、思いのほか遠い場所にあった。  剛剣は虚しく空を斬る。  小夜の三寸前を。  ややのけ反るような形で伸び上がるように上段に構える小夜の前を。  踏み出した右足を強く蹴り伸ばし、上体を圏外へ逃した小夜の目の前を。  前方に泳ぐ大石の上体。  少女は、全くの無防備となった大石の肩口に向け真っ直ぐ切り落とした。 (誘い、だったのか)  大石は気づく。腕を狙う初手は誘いであった、と。先手を討ったかのように見えた最初の剣は抜刀、上段に剣を抜くための過程にすぎず、本命は直後に来る大石の反撃を回避した上での後の先だったのだ。 「朱閃流、雷辰」  眼前をすぎる白い光と、時間差を置いて響き渡る轟音。虚影と実体の二段重ね。これこそが雷の名を冠する由縁である 「……勝負ありました」  小夜は大石の首にピタリと当てていた刀を鞘に戻した。
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