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それは光明にとって初めての経験だった。
闇夜の森を、木々の間を、猛スピードで駆け抜けて行く。
ジェットコースター等とは明らかに違う感覚が光明を支配し、光明は声にならない声を上げ、しがみつくのに必死だった。
不意にその感覚が途絶える。
天丸が地面に降り立ったのだ。
「ついたで」
天丸は光明を降ろしながら言った。
光明は、今までの感覚に、まだ頭がクラクラしていたが、それが治まってくると、周りを見回してみた。
周りは暗かったが、幸い満月が辺りを照らしており、うっすらと様子が見てとれた。
森が開けており、すぐ近くに滝がある。
その滝が幅3~4メートルはあると思われる川を作り、川下へ流れていた。
光明があたりを伺っていると、不意に声をかけられた。
「ちょっとここで待っとき。お師さんに言うてくるから」
そう言うと天丸は滝の裏に入っていった。
おそらく裏は空洞になっているのだろう。
一人残された光明は、先程の事を思い出していた。
目が覚めたら見知らぬ場所におり、今までマンガの中でしか見た事のない様な存在が、水筒をいじっている。
声をかけ、水筒を返してもらい、互いの名を教えあい、今ここにいる。
天丸に対する恐怖心がなかったわけではない。
だが、それ以上に1人でいる事が心細かったのだ。
誰でも良い、誰かにそばにいてほしかった。
ふいに、両親や沙良の姿が頭に浮かんだ。
いったいここはどこなのだろう、家族には会えるのか、もしかしたらもう…
そんな事を思うと、自然と涙が溢れてきた。
朝の出来事が、頭の中に次々と浮かび上がる。
あの時、母さんを待っていたら、1人で行ったりしなかったら、河原の声を聞かなければ、今頃はきっと、家で遠足の思い出を家族に話していただろう。
次々と溢れだすそんな思いに、光明は涙が止まらなかった。
「なんやねん光明、何を泣いとんねん」
いつの間にか天丸が戻ってきていた。
「あ~…ほれ、泣いとらんと、お師さんとこ行くで。お師さん話し聞いたる言うてるから…な」
泣き止まない光明をなんとかなだめようと、天丸はできるだけ優しく声をかけた。
それでも光明は泣き続けていたが、やがて治まってくると、天丸と共に、洞窟に向かって歩き出した。
洞窟の中は、地面がなだらかになっており、つまづく事はなかったが、あたりが見えない程暗く、光明は天丸の服の裾を掴んで歩いた。
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