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しばらく行くと、曲がり角に差し掛かり、そこを曲がった奥に薪の炎による明かりがあった。
そしてその明かりに1つの人影が照らしだされていた。
天丸と同じような衣服を身に纏い、その衣服から飛び出ている手足の色は、薪の炎よりも赤い。
そして手足と同じように赤いその顔には、無造作に伸びた白髪と、立派な髭があった。
そして何より特徴的なのが、長く伸びた鼻だった。
その姿は、紛れもなく天狗と呼ばれるそれであった。
その威圧的な姿に、思わず光明は息を飲み込んでいた。
「お師さん。このチビがさっき話した光明っちゅう奴ですわ」
天狗は少し顔を上げ、天丸に紹介された光明をじっと見据える。
思わず光明は天丸の後ろに隠れ、恐る恐る顔だけを覗かせ、こんばんわ、と小さく挨拶をした。
「心配せんでもええ。お師さんは恐ろしく見えるかもしれんけど、話し聞く耳だけは持っとる人やからな」
自分の後ろに隠れた光明に声をかけると、突然天狗が口を開いた。
「天丸…話しを聞く耳だけは持っとる、とはどういう事じゃ」
「ほんまの事ですやん。まぁ酒入ったらその耳ものうなりますが」
「馬鹿者!聞いとらんようでちゃんと聞いとる!それに、だけ、とか言うでない!まったく…お前はもう少し師を敬う心というものをじゃな…っと、そんな話しはいい。光明とやら」
いきなり声をかけられ、光明はビクッとなった。
「そんなに恐れんでもいい。そばへ来なさい」
天狗は光明に手招きをした。
光明は天丸と天狗を交互に見た。
それに気づいた天丸は、行け、というように首を振って、光明を促した。
光明は戸惑いながら、ゆっくりと天狗に近づいていった。
天狗の隣に立ち、改めてその大きさを実感する。
あぐらをかいて座っているにもかかわらず、天狗は自分より、頭1つ分程大きかった。
恐らく立ち上がると天丸より大きいと思われるその大きさに、光明は再び圧倒されていた。
「天丸から聞いて、事情はわかっておる、しかし儂は、もう少し詳しい事が知りたい」
「…あ…あの…僕…」
「言わずともよい。儂の目を見よ」
言われて光明は天狗の目を見つめた。
紫がかった不思議な色をしているその目を見つめていると、光明はまるで心の中を見透かされているような、奇妙な感覚におそわれた。
しばらくそのまま見つめていると、不意に天狗が話しかけた。
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