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「光明よ、ぬしの妹から預かった玉を見せてはくれぬか」
光明は驚いた。
沙良から預かった玉の事も妹の事も、天丸には話してはいない。
それなのに何故わかったのか。
「驚く事はない。ぬしの心を読んだのじゃ」
再び光明の心を見透かしたかのように、天狗が答えた。
いや、再び心を読んだのかもしれない。
「あの玉は渡せないよ。沙良の宝物だもん。沙良に返さなきゃ」
光明は後ろに抱えたリュックを庇うように一歩後ずさった。
「心配せんでも取りはせん。少し確かめたい事があるだけじゃ」
天狗は静かに座ったまま、光明を見据えた。
光明はそんな天狗をしばらく見つめていたが、やがてリュックを降ろすと、中から玉を取り出した。
「ちゃんと返してね」
そう言って、光明は天狗に玉を手渡した。
天狗はその玉をじっと見つめながら、何かを考えていたようだが、やがて再び光明を見ると、玉を差し出した。
光明は玉を受け取ると、再びリュックにしまいこんだ。
「光明よ…今日はもう遅い。話しは明日してやろう。今日の所はここでゆっくり休むとよい」
その言葉に光明は、深い穴の中へ落とされたような気分になった。
もしかしたら、家に帰れるかもしれない。
そんな期待が一気に打ち砕かれた気分だった。
「僕…家に帰れないんですか?」
口にせずにはいられなかった。
どうしても確かめたかった。
しかし天狗から返ってきた言葉は、それも明日話してやる、という言葉だった。
仕方なく光明は、天狗の指示する場所へ横たわり、リュックを枕変わりにして、目を閉じた。
天狗は、そんな光明の様子をしばらくの間黙って見ていたが、光明が寝息をたて始めた事を確認すると、天丸を連れ立って、外へと歩きだした。
「お師さん…あいつどないするつもりでっか?それに、あの玉なんですのん?えらい霊力感じましたで」
外にでた天丸は、石の上に腰を下ろし、師匠である天狗に尋ねた。
天狗は、天丸と同じように、石に腰をかけ、目を閉じてしばらく何かを考えこんでいるようだったが、やがて目を開き答え始めた。
「あれは…刻の宝玉と呼ばれる物」
「刻の宝玉?あの刻の鏡と対になっとるっちゅう、あれでっか?あのガキがなんでそんなもん…」
「何故あの者が、あれを持っていたのかはわからぬ…だが、あの者の心を読み、あの玉から感じたものにより、いくつかわかった事がある。まず一つは、今の世にあの者の帰る場所は
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