天狗の弟子に

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存在しないという事…そして、もう一つは、あの玉の事…」 この世に、光明の家が存在しないであろう事は、天丸も薄々感じていた。 天丸は、この島国のほぼ全ての土地の名を把握していた。 そして、自分の知る限り、東京という土地は存在しない。 存在しないのならば、少年が嘘をついているか、その土地自体がこの世にはないという事になる。 最も自分のまだ知らない土地という事も考えられるが、少年の持つ、奇妙な持ち物と着物からして、その可能性は低いと思われた。 「そやったら、お師さん…あいついったいどっから来た言わはりますんや?」 「そこまではわからぬ…それを知りたくば、鏡を見つけだす他ない…ただわかる事は、あの者は…時を越えてここに来たという事よ。あの玉には、二つの力の残留があった。一つは大きく、そして邪悪な力、もう一つは小さく、そして清き力…その内の邪悪な力の持ち主が、光明をこの時へと呼び寄せた。いや…正確には、宝玉の持ち主を呼び寄せたのだ」 光明はたまたま、宝玉を持っていたにすぎない。 どんな経緯であの玉が光明の手に渡ったのかはわからない。 もし光明が宝玉を持っていなければ、光明はきっと、それまで過ごしてきた、普通の暮らしを送っていたのだろう。 しかし、たまたま持っていた宝玉のせいで、あんな小さな少年の人生が大きく狂ってしまったのだ。 天丸は、まだ小さな身で、そんな重い運命を背負う事となった光明の運命を気の毒に思った。 「お師さん、あいつ何とかならんのでっか?宝玉の力で、なんとか家に帰したるとか…このままやったらあいつがあまりに気の毒ですわ…」 「それは無理というものよ…時を越えるという事は、何の道具も使わずに、やすやすと行えるようなものではない…光明の持つ刻の宝玉、それに刻の鏡が揃わぬ限り、手だてはなかろう」 天丸の問いに対する答えは無情なもので、天丸はそれ以上聞きはしなかった。 師匠は自分より、遥かに物事に詳しく、その師匠が無理と言った以上、他に手だてが存在しないという事を天丸は知っていたからだ。 「ほな…後は刻の鏡という事でんな…何かあてはあるんでっか?」 「今現在、刻の鏡がどこにあるのか、何者の手にあるのか…それはわからぬ…だが、あてはある。それは、相手もまた、刻の宝玉を欲しているという事よ」 そう言いながら、天狗は天丸の顔を見た。 天丸の顔を見ながら、さらに話しを続ける。
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