天狗の弟子に

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光明は夢を見ていた。 夢の中で光明は、いじめっ子達から沙良を庇っていた。 いじめっ子達の手足がとんでくる。 自分の体に当たっている。 痛くはなかった。 平気な顔で光明はたっていた。 そんな光明に恐れをなし、いじめっ子達が逃げていった。 沙良の方を向くと、嬉しそうに笑っていた。 光明も沙良に微笑みかける。 お互い手を取り合って、家路を歩き始めた、と思ったらリビングにいた。 父親と母親がいて、沙良がいる。 皆でテーブルを囲み、笑いあって話しをしていた。 光明も、会話に入ろうとして、話しかける。 しかし誰も聞いてくれなかった。 家族の皆が自分の事を見ていなかった。 いつの間にか光明は、家の外にいた。 家族の皆が家の中で話している。 光明は近づこうとしたが、歩いても歩いても、家族の所へ行けなかった。 走っても走ってもたどり着けず、光明は悲しくてたまらなくなり、必死で皆を呼んだ。 「お父さん!!お母さん!!沙良!!」 その途端、光明は目を覚ました。 わけがわからなくなり、体を起こすと寝ぼけ眼であたりを見渡す。 風通しの良いように積まれた薪に炎が炊かれ、岩肌を照らしていた。 焚き火の近くには、藁で編まれた座椅子が置いてあった。 それらを眺めながら、しばらくボーっとしていた光明だったが、少しずつ今の状況を思い出してきた。 それと同時に再び悲しみがぶり返し、両方の瞳から涙が溢れる。 「お父さん…お母さん…沙良…」 両手で膝を抱えて、その中に顔をうずめ、光明は泣き出した。 家に帰りたい… 家族に会いたい… その思いが、光明の心を支配していた。 無理のない事だった。 突然家族と引き離され、誰一人として知り合いがいない、見知らぬ場所へ連れていかれる。 その寂しさ、不安感に耐えられるだけの心の強さを、まだ五才の光明は持ち合わせてはいなかった。 たとえ家族でなくとも、もし会えるのなら、いつものいじめっ子達であったとしても、喜んで歓迎しただろう。 しかし、そんな思いとは裏腹に、現実は容赦なく、光明を寂しさのどん底に突き落としていた。 光明は再び横になった。 そのまま泣き続けていたが、やがていつの間にか泣き疲れ、再び眠りへと誘われていった。 「おい!起きんかい!いつまで寝とんねん!」 声と共にいきなり体を揺さぶられ、光明は目を覚ました。 「わぁっ!!」
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