小天狗物語

過去へ…

秋も半ばを迎え、木々に茂る葉は、全体がほんのりと茜色に染めあがる。
太陽が沈み始め、もはや後少しで夕日へと移り変わろうとしている。
そんな夕日の中、烏が鳴き始め、強くなりつつある風が紅葉を揺らす。
アスファルトを照らす太陽の灯りが、五つの長い人影を作る。
五人の少年少女によって作り出された影の主から、複数の怒声が聞こえていた。
「この野郎！」
「いい気になってんな！」
少年達は怒声を響かせながら、一人の少年に対し、拳や足を振り下ろしている。
周りの少年達の暴行に、その少年はうずくまりながらも必死に耐えていた。
「やめて！お兄ちゃんをいじめないで！」
傍らでその様を見ていたピンク色のワンピースに、同じくピンク色のカーディガンを着た少女が、堪えきれずに少年達につかみかかる。
だが、その抵抗も虚しく、少年達は暴行をやめようとしなかった。
「ふん！弱いくせに逆らうからそうなるんだ！おい、行こうぜ！」
やがて、思うぞんぶん殴りつけた少年達が、満足したかのように去っていった。
痛みに耐えながら必死に立ち上がろうとする少年に少女が駆け寄る。
「お兄ちゃん、大丈夫？ごめんね…あたしのせいで…ごめんね」
泣きじゃくりながら謝る少女に少年は痛みを堪えながら必死に笑顔を向けた。
「大丈夫だよ…沙良(さら)…お兄ちゃんは、大丈夫だから…さぁ、家に帰ろう」
そう言いながら少年は、妹の手をとり、ふらつきながらも家に向かって歩きだした。

少年は、その名を光明（こうめい）と言った。
葛木（かつらぎ）光明。
今年の五月で五才になった。
一つ年下で気の弱い妹の沙良と共に、明日の遠足の為のお菓子を買いに行った帰りの出来事だった。
よく沙良をからかって泣かせている近所の少年達と遭遇し、沙良を守る為にケンカになったのだ。
未だ嗚咽を洩らしている沙良を慰めながら、光明は家に向かって歩いていた。

「ただいま、お母さん！」
「おかえりコ…どうしたの、その怪我！？またケンカしたの！？大丈夫？沙良も大丈夫？」
帰ってきた光明の姿を見るなり、母親が駆け寄ってきた。
「大丈夫だよ！こんなの大した事ないよ！」
「とにかくこっちへ来なさい。薬塗ってあげるから」
母親は、強がって見せる光明を居間へ連れていくと、ソファーに座らせた。
沙良も光明の隣へ座り、傷だらけの兄を心配そうに見ていた。
棚から救急箱とウエットティッシュを