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光明は闇の中に立っていた。
あたりを見回しても、何一つ目に映るものはない。
急に不安になってきた光明の耳に、いきなり後ろから声が聞こえた。
「お兄ちゃん」
聞き覚えのあるその声に、光明は振り向いた。
そこには、沙良が笑顔で立っていた。
お気に入りのピンク色のワンピースにピンク色のカーディガン、肩でカットされた髪、そして何よりその笑顔。
見間違いなどではない、確かにいつもの沙良の姿がそこにあった。
「沙良!」
光明は妹の名を叫ぶと抱きしめた。
温もりを感じる。
思わず涙がこぼれそうになる。
自分の腕の中にあるその暖かさに、光明は、まるで久しぶりに会ったかのような懐かしさを感じていた。
「い…痛いよ、お兄ちゃん!」
ハッとなって、光明は沙良から離れた。
もう!と言いながら、沙良は自分の体をさする。
「どうしちゃったの?お兄ちゃん…甘えんぼさんになっちゃった?」
言いながら、光明にイタズラっぽい笑顔を向ける。
「バッカ、違うよ」
光明は照れくさそうに、唇を尖らせながらそっぽを向いた。
「ねぇお兄ちゃん、お家に帰ろう」
沙良が笑顔で光明に手を差し出す。
光明は、うん、と頷きながら、沙良の手を握り、歩きだした。
「ところで沙良、どうしてこんな所にいるの?」
歩きながら沙良に質問する。
「もう、お兄ちゃんを探しに来たんだよ!お兄ちゃん、いきなりいなくなっちゃうんだもん…お父さんも、お母さんも心配してるんだからね!お兄ちゃんは、どうしてこんな所にいたの?」
逆に質問を返され、光明は返答に困ってしまった。
自分でも何故こんな所にいるのかわからなかった。
「その…わからないんだ…突然ここにいたって気がして…」
まるで何かを忘れているような気分だった。
ここにいる原因、それを覚えていたはずなのに思い出せない。
そんなもどかしさが、光明の中にあった。
沙良は、そっか~、わかんないんだ~、と言うと、そのまま歩き続けた。
しばらく歩いていると、奇妙な声が聞こえた気がして、二人は立ち止まり、顔を見合わせたた。
そのまま耳をすますと、今度はハッキリと聞こえた。
それはまるで唸り声の様でもあり、少しずつ近づいて来ているようだった。
「お…お兄ちゃん…」
沙良は不安そうに光明を見上げ、寄り添ってきた。
光明は沙良に、大丈夫だよ、と声をかけ、あたりを見回す。
何かが遠くの方で動いた気がした。
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