天狗の弟子に

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それが何かは、最初はわからなかったが、近づく度に、だんだんとハッキリしてきた。 それは、以前テレビで見た、ゾンビと呼ばれる恐ろしい化け物だった。 全身が異常な色にそまり、目は垂れ下がり、口からは、涎のような、気持ちの悪い液体が溢れている。 今まで光明が見てきた中で、一番恐ろしいと感じたものだった。 「さ…沙良」 「お兄ちゃん、怖い…」 沙良は怯えた表情で、全身を震わせていた。 ゾンビはゆっくりと、しかし確実に自分達に近づいてきていた。 「沙良、逃げよう!僕の手、離しちゃダメだよ!」 そう言うと光明は沙良の手を強く握り、走り出した。 必死で走り、逃げながら時々振り返り、沙良とゾンビを確認する。 だんだんゾンビが近づいてきていた。 走っても走っても、振り切れなかった。 「お…お兄ちゃん…もう…走れ…ない…よ…」 沙良の苦しそうな声が聞こえた。 「ダメだよ…!もっと…走らなきゃ…!」 「で…でも…」 沙良はあまり体力がある方ではない。 ついに限界が来た沙良は、その場に座りこんでしまった。 仕方なく光明も立ち止まる。 ゾンビは、もうすぐそこまで来ていた。 光明は沙良とゾンビの間に立った。 恐ろしくてたまらなかったが、沙良を置いて逃げ出すわけにはいかなかった。 全身が震え、涙が出そうになったが、光明は必死で歯を食いしばってこらえた。 ゾンビは立ち止まる事なく、こちらに向かって近づいてくる。 光明は覚悟を決めた。 恐ろしくて、逃げ出したかったが、沙良を置いていくのは嫌だった。 沙良を守りたい。 今、光明の心にあるのはそれだけだった。 「う…わああぁぁ!!」 固く目を閉じ、腕を振り回し、光明はゾンビに向かって走り出した。 その瞬間、光明は光に包まれたような気がした。
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