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持ってきた母親は、まずウエットティッシュを一枚取り出し、光明の体を拭き始めた。
数枚のウエットティッシュを使い、光明の体を綺麗に拭き終わると、今度は救急箱から傷薬を取り出し蓋を開けた。
「まったく…ケンカばかりしちゃダメじゃない…」
まぁ、いつもの事だけど…と呟きながら、手慣れた様子で薬をつけていく。
沙良も母親の真似をして、光明に薬を塗っていった。
「だってあいつらが悪いんだよ!あいつらが沙良をいじめるから…僕…」
うつむいた光明の頭を母親が撫でた。
「そうね、コウはいつも頑張って沙良を守ろうする。コウは立派なお兄ちゃんよ」
光明が顔をあげると、母親は優しい笑みを浮かべている。
「でもね、そんな風に怪我ばかりしてると、お母さん心配なの。沙良だって悲しむでしょ?ケンカばかりじゃなく、他にも沙良を守るやり方があるはずよ」
「他のやり方って?」
ふくれっつらで母親に聞く。
「そうねぇ…みんなで仲良くできるようにするとかかな」
母親が笑顔で答える。
「無理だよ…あいつらと仲良くなんて…」
「そんな事ないよ。コウは優しい良い子なんだから、最初はなかなかうまくいかなくても、優しさを持ってお話ししたら、きっと誰とでも仲良くなれるよ」
「そうかなぁ…」
そうよ、と答えながら母親は再び薬を塗りはじめた。
「はい!これでよし!」
光明に薬を塗り終えると、救急箱に戻し、ウエットティッシュと共に棚になおした。
「ところでコウ、明日は遠足なんでしょ?準備はちゃんと出来てるの?」
「大丈夫!後はオヤツを入れるだけだよ」
「そっか、じゃあ忘れない内に、オヤツをリュックに入れてきなさい」
「うん!」
光明は、先ほどまでの怪我を感じさせないかのように元気良く立ち上がると、行こう沙良、と妹に声をかけ、自分の部屋に向かって走っていった。
沙良がその後ろを同じように走ってついて行く。
その元気の良さに母親は、呆れながらも優しく、部屋へと向かう二人を見つめていた。
「母さんに聞いたぞ、コウ。またケンカしたんだって?」
夕食時、自分の席に座った光明に、父親が聞いてきた。
いきなり父親に聞かれた光明は、慌てながらも、俯(うつむ)きかげんで小さく、うん、と答えた。
「それでまた、一方的にやられて帰ってきたのか?そんなやられてばかりじゃ駄目だぞ。剣道でも習ったらどうだ」
「い…いいよ別に、そんなの…いただきます」
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