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~現代~
河原のほとりで、一人の少女が立っていた。
お気に入りのピンクのワンピースに、ピンクのカーディガンを身に纏い、髪は肩のあたりで切りそろえられている。
光明の妹の沙良である。
沙良はただ黙って、穏やかな川の流れを見つめていた。
しかしその表情は、涙こそ流れてはいないものの、悲しさと寂しさに満ち溢れていた。
少し気を抜けば、涙が溢れ出しそうになったが、必死で我慢していた。
光明が行方不明になってから、すでに半年の歳月がたっていた。
光明が消えた日のただ一つの目撃証言である、河原でまるでかき消すように消えた、という証言を元に、警察による捜索活動が続けられたが、一向に見つかる気配も手がかりも得られず、ついに捜索が打ち切られた。
近所でも噂となり、両親、特に母親はその対応に追われ、必死だった。
そんな大変な状況であるにも関わらず、いつも母親は、沙良に優しい笑顔を向け、泣きじゃくる沙良を慰めた。
いつだったか、光明が行方不明になった事が、近所で評判になり始めた頃、鉄郎(てつろう)が家に来た事があった。
いつも自分と光明をいじめていた、少年達のリーダー格である。
光明が行方不明になる前日も、光明を殴りつけていた少年達の一人だった。
「おばさん…きっと俺のせいなんだ…俺のせいでコウがいなくなっちゃったんだ…コウがいなくなった前の日も、俺…コウの事いじめてて…だから俺のせいなんだ…ごめんなさい…ごめんなさい…!」
と泣きながら謝ってきた時も、鉄郎を責める自分を止め、気にしなくてもいいんだよ、コウがいなくなっちゃったのは、絶対にあなたのせいじゃない、と優しく頭を撫で、慰めていた。
母親は、いつも沙良に優しい笑顔を見せ、決して涙を流さなかった。
しかし沙良は知っていた。
夜になると、いつも自分を責め、涙を流している母親の姿を、そして、そんな母親を必死で励ましている父親の姿を。
あの時、ちゃんと強く引き止めていれば、ちゃんと自分がコウについていれば、コウから目を離さなければ、きっと…
そんな後悔と悲しみが入り混じった言葉を、沙良は隠れて聞いていた事があった。
いつも自分を慰めてくれた母親の泣き声を聞いたのは、その時が初めてだった。
その時、沙良は初めて知った。
悲しみ、辛い思いをしているのは、自分だけではない事を。
気丈に振る舞っているように見えているが、母親もまた、自分と同じ
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