天狗の弟子に

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わかった。 そのまま回転させると、両端の内の片方が外れた。 「おぉ!開いた!ほう…うまい事なっとるなぁ」 蓋を開ける事に成功し、良い気分になっていると、不意に後ろから声が聞こえた。 「お…おじちゃん…誰?」 声に振り向くと、目を覚ました少年が、四つん這いの姿勢でこちらを見ている。 その目には、困惑と恐怖の色が浮かんでいた。 それも無理はなかった。 自分はあまり人前に姿を現す事はない。 目の前にいる少年は、恐らく自分を見るのは初めてだろう。 それどころか、妖怪自体を見た事がないのかもしれない。 いきなり自分の姿を見られて戸惑った天丸は、慌てながら少年に声をかけた。 「い…いや、怪しいもんやないんや。ただ…ちょっと、この筒が気になってな」 話しながら、自分は何を言っているのだろうと思った。 少年が怯えているのは、自分が、恐らく少年のものと思われる水筒を持っている事ではない。 鴉天狗としての、自分の風貌なのだ。 その事は、少年の視線を見ればすぐに理解できる。 少年は先ほどからずっと、水筒ではなく自分の顔を見ていた。 「ま…まぁそんな目で見んなや。これ、お前の持ちもんか?ほら、返すわ」 そう言いながら、少年に近寄り、蓋と水筒をまとめて差し出す。 少年はおずおずと手を延ばし、水筒を受け取ると、天丸をじっと見つめた。 先ほどより、少しはマシになったようだが、その目からは今だに怯えが拭いきれていない。 「おいボウズ。お前、どっから来たんや?」 目の前にしゃがんで聞いてみる。 「…家から…」 怯えながら口にだした少年の答えに天丸はがっくりきた。 「いや、家からくらいわかる。どこに家があるんや?」 聞き方を変えてみる。 「…東京…」 再び帰ってきた答えに天丸は途方に暮れた。 世の中の事で自分の知らない事はあまりないと思っていたのにこの少年の言ってる事はさっぱりわからない。 それだけではない。 少年の着物も持ち物も自分の理解を越えている。 天丸はどうするべきか迷った。 「どないしよか…こんなわけわからんガキ一人で麓に放り出すわけにもいかんし…かと言って、こんなとこに一人にさせとくわけにもいかんし…お師さんとこ連れて行くか」 迷った末、天丸は自分の師匠の所に連れて行く事にした。 「ボウズ、お前の言う東京ってとこやけどな、ワイにはどこかわからん。せやからとりあえず知ってそうなお人のとこに
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