天国

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夢を見た。 砂漠の中、ひたすら歩く。 するとオアシスが現れて、若い頃の君が、上半身裸で立っていた。 夢を見た。 君はまるで、体育祭の日の女子高生のように焼けた肌をしていて、 綺麗な青い宝石を口に含もうとしていた。 夢を見た。 僕はそれを止めたが、 君は笑って言った。 「貴方も欲しいだけでしょう、私のこの宝石を」 夢を見た。 そう。そうだよ。それは本当は僕の宝石だ。返せ!!! 「あげないわ」 僕の物だ!!! 「ふふ」 何でくれないんだ!!? 「貴方には私は傷付けられないの」 そんな夢を見た。 理解されたく、またそもそもそんな感情を知らない人には知られたくなく、 でも君だけが僕の唯一のはけ口だと、今でも信じてしまっているのだ。 天国に何かひとつだけ持って行けるなら、僕はその青い宝石が良い。 僕の感情を全部、その宝石に詰め込められたら。 「欲しい」 気のせいよ。 「欲しい」 何年経ったと思ってるの。 「欲しい」 気のせいなんかじゃない。魂の重みの問題だ。 「愛してる」 君は別の男と結婚し、戦争で死んだ。 君の魂を、僕は独り占め出来なかった。 「一人はイヤだな」 本当は、わんわん泣き出したいくらいだ。 ……夢を見ていたんだ。 .
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