恐怖

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彼女は私の上司だった。理論詰めの、彼女の仕事っぷりは圧巻で、店長としての異動で現れたにも関わらず、皆が彼女を慕った。 明るく、頭が良く、冷静。 しかし皆に認めて貰えるように勤しむ彼女の努力は、私の立ち位置からはっきりと見ることが出来た。 私も他店から異動して来たばかりで、また店長などという立場でないものの、異動によって部下が増え、負担が増えた頃だった。 まだ店に完全に染まりきってはおらず、新人でもない私は、彼女の格好の相談相手だった。 秋の始め。 一緒に休憩に出ては、彼女はインスタントのスープと、家から持って来たお握りやお菓子を摘んでいた。 「毎日、お菓子を食べるのは良くないよ?」 私が言うと、小さな彼女は眉をハの字にした。 私の腰ほどしか身長のない彼女は、私と少し距離を置いて立ち尽くす。 「毎日、ちょこっとずつなら……だめ?」 私の表情を伺いながら、難しい顔をして言う。 どうしよう。 「好きだったもんね」 私の一言は、空気に溶け込んだ。 「いいよ、ちょっとだけにしてね」 .
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