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長瀬君は凄く地味な外見で、くせっ毛の黒髪を無造作に伸ばしていた。服はいつも、黒かグレー。
目がくっきり二重で大きくて、肌が少し黒い。
私はいつも、『長瀬君はきっとインドの王子様の衣装を着たら似合うだろうな』と思っていた。
ぼうっと見つめていると、それを長瀬君に気付かれ、私は思わず目を逸らす。
そんなことが何度かあり、何となく、長瀬君の方が私を見ていることが多くなった気がした。
そうか。
長瀬君も私を、意識したか。
ある日、私は長瀬君に電話した。
「会いたい……」
どうしても。
どうしても。
この時に会わないと、狂ってしまう、19の夜だった。
貴方は他の女の人と一緒に、二人で飲んでいた。
私は、そうだった。だから、狂ったんだ。
ああ。
何が真実で、
何が勘違いだっていうの。
あの時の私の頭の中は確かに勘違いだわ。
でも、
あの時の私の心臓の重みと、それが軽くなった感覚は、
気絶した方が楽なくらい胸が痛くなった感覚は、
真実だわ……。
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