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気にしてやらなかった。
いや、気にして意識しているからこそ、余計に彼女になんてすることはなかった。
千夏のお陰でバンドは上々。
別れたとかでいなくなると俺がメンバーに責められる。
このままが続くこと。
それが俺の望み。
かわすばかりで応えてやらなかった。
応えてやらなくても、俺は俺なりにちゃんと千夏をかわいがってやっていた。
Dualのマスコットキャラクターみたいな存在。
ファンの間でもそんなふうに広まっていた。
ライブが終わってすぐは高揚してる。
うまくやって盛り上がれれば麻薬でもやったかのように気持ちいい。
更に気持ちよくなりたくて、誘われるがままにライブハウスを出て、狭い路地の暗がりで女といちゃつく。
俺は女好きかもしれない。
彼女いるのに、彼女でもない女とキスして、その体を撫で回している。
ふと気がつくと、女の視線は路地の向こうを見ていて、釣られるように見ると、千夏がそこにいた。
泣きそうな顔なんて見せてくれて、俺は女から離れて乱れた服を整える。
千夏は何も言わずに走っていった。
そのあと、気まずく思いながら楽屋に戻ると千夏はそこにいて、普通にメンバーと話して笑っていて、ほっとした。
受け止めないくせに泣かれたくない。
マスコットは常に明るく笑っていればいい。
「千夏」
俺が声をかけてふれようとすると、千夏は俺の手を振り払った。
「…ハルちゃんはいつになったら振り返ってくれるの?あたし、ずっとハルちゃんのこと好きなのに、他の子ばかり相手にしてる」
泣きそうな顔でそんな嫉妬してくれて。
面倒に思ったり、当然のように思ったり。
「ずっとそのままでいれば?」
「ずっと好きでいればいつかつきあってくれるの?」
いつか…も、ない、と言い切れるかもしれない。
俺はずっとこのままがいい。
千夏が俺を好きで、追いかけて、振り返らないことに泣きそうになって、嫉妬して。
それでもまだ好きで、結局また俺を追いかける。
「つきあってやるかもよ?」
「…本当?」
少しうれしそうに聞く。
馬鹿なやつ。
でもそんな千夏が本気で気に入っていたりする。
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