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目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。
ベッドの横には、あたしを見て喜んで泣いているお母さんの姿。
しばらくしてから息を切らせて駆けつけたのはお父さん。
あたしはどうやら事故で3日ほど眠ったままだったらしい。
そのまま目を覚まさないのではないかと、かなり心配されたらしい。
腕につけられた点滴の針と、ゆっくりと流れ落ちる液体。
自分がどこでどうやって事故ったのか記憶がなかった。
一時的な軽い記憶喪失ってお医者様に言われて、日常に支障はないからって、1週間くらいで退院した。
大きな事故だったらしい。
夜、あたしは腕に大きなぬいぐるみを抱えて歩いていて、そこに車が突っ込んできて、車はあたしをはね飛ばし、歩道を暴走して壁にぶつかって止まったのだとか。
あたしは持っていたぬいぐるみがクッションになって、大きな怪我もなく生きていられたのだとか。
……自分のことなのに、すべて聞かされた話で、そう言うのだからそうなのだろうと思う他には何もない。
大きなぬいぐるみをなぜ持って歩いていたのか、どこにいこうとしていたのかも記憶にない。
事故の前後のことだけが、すっぱりくっきり頭の中から消えていたのだ。
家に着いて、自分の部屋に荷物をおろして、部屋を見渡す。
特別忘れていることなんて他にないように思う。
壁に貼られた1枚の大きなポスター。
Dealというバンドの白黒のポスターだ。
メンバーは5人で、ビジュアル系、それぞれにポーズを決めている。
……うん。知ってる。わかる。
あたし、確かこのバンドのファンだった。
真ん中の人がボーカルのハル。
…ハルちゃんって呼んでいたと思う。
左はベースのタクちゃん、その左がドラムのカサキさん、右はギターのヨミさんで、ツインギターのショウタくん。
……何を忘れているんだろう?
事故のことだけ?
…何か、もっと別のこと。
もっと大切な何か。
忘れているような気がして、でも何も思い出せなくて。
彼氏でもいた…?
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