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「トラス様、私がやりますから」
「あ、だが、ラシルの世話は私がやるべきで…」
「それはわかりますけど、それじゃ…焦げますよ」
「えっ」
「代わってください」
ラシル用の食事を作るために台所に立ったトラスだったが、あまりの手際の悪さにメイヤが助け船を出した。
(カルン殿は不器用と言われたが、やはり女性は違う…)
手慣れた様子で料理をするメイヤを見ながら思った。
「はい、出来ました」
「ありがとう」
トラスはお盆ごと受け取ると二階に向かった。
「何か、楽しそうだね」
部屋に入ると、ラシルが言った。
「突然、何だ?」
「ここさ、周りが静かだから、割りと台所の話し声って聞こえるんだよね」
身体を起こしながらラシルが言う。
「う…」
「ま、いいけどさ。カルンに頼まれたのは、兄さんだから」
「やっと、落ち着いたみたいだからな」
「うん、そうだね」
ラシルを助けるために、光の妖精の記憶を取り戻したカルンが屋敷を去った後、事情を知らされたメイヤは、突然のことに泣き崩れたのだ。
二度と会えないわけではないが、始終、傍に居ることは出来なくなってしまった。
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