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ドンッ
「うわっ」
「あっ、ごめん、大丈夫か?」
廊下の曲がり角での出会い頭の衝突で、思いっきり尻もちをついてしまった。相手は焦ったように、助け起こしてくれる。
「怪我は?」
「いえ、大丈夫です」
「そっか、じゃ、急いでるから」
相手はほんとに急いで、その場を去っていった。
相手は最近、一人立ちした若い魔法使いだった。しかし、ローブを纏うわけでもなく、杖を携えた姿を見かけたこともない。
だが、その身には希なる能力と魔法力を宿し、魔法使いの最高位につくはずの人物だった。
見習いの自分から見たら、雲の上の存在に等しかった。
初めて見かけたのは、三年ほど前の春先だった。
絶滅したと思われていた光魔法使いの賢者とともに、この闇の館を訪れたのだ。先輩魔法使いたちが緊張して見守る中を、おどおどした表情で歩いていた。
それから、ちょこちょこ館に出入りするようになり、何度か姿を見かけた。
最初は何者なのか、さっぱりわからなかった。魔法使いの見習いらしいのに、賢者が敬語で話しかけ、長や次期長のトラス様と親しげにしている様子は不思議だった。
見た目から、純血らしいとはわかったが…。
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