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ゆっくりと、だが確実に俺はホームを一歩一歩進んでいく。
携帯は非情にも無言を貫いており、なにか来る気配すらない。
改札を抜けても、俺の気持ちを映したかのように沈黙し続けた携帯を開いては更に落胆する。
何もかも唐突すぎる。
立花も、なぜ…今なんだ。
七海がふと見せた暗い顔は今にも泣きそうで、いつもなら頭を撫でるなりするところが…その七海すら居ないのだ。
なのに、目を閉じればその顔は鮮明に甦ってくる。
「はぁ…」
誰も居ない自転車置き場で1人ため息をついても仕方のないことだと分かっていても、半ば反射的にしてしまう。
「あ…」
そうだ。
今俺が自転車で帰ってしまっては、七海が帰る手段がなくなる。
俺はそう思い、自転車のキーを差しておいてそのまま立ち去った。
仕方がない。
歩いて帰るか…。
とぼとぼと歩く、酔ってもいない若いサラリーマン。
周りから見れば笑い者だろう。
だけどいいんだ、これで…。
今はそう思うしかなかった。
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