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柔らかな風が吹く中、俺達はゆっくりと歩き出した。お互いに背を向けて、反対の方向に。
君のことは今でも好きだ。でもそれは、叶わない思いで…。
――時は遡ること、約2年前
「何で分かってくれないんだよ?」
「実現性がなさ過ぎる」
今日何度目かの、同じ会話をする。どうもこいつとは[うま]が合わない。ことごとく意見が衝動する。でもそれが、俺を頑張らせてもくれた。ほとんどライバル心の様なものだったけど、こいつに負けない様にと頑張れた。
「てか俺、引っ越す」
「は!?」
唐突な報告に俺は一瞬、理解が遅れた。
「明日の朝一で出発だから、お前と個人的に会うのは、これが最後だ」
俺はポカンと口を半開きにしたまま、何も言えなかった。
「これ以上話してもムダだし…じゃあな」
そう言ってあいつは去って行った。この町に転勤してきたばかりの俺にとって、あいつは唯一の相談相手だった。まあ、いつも衝動して終わりだけど。けど、それを失うのは、大きな痛手だ。
「やっぱり…夢は届かないから夢なんだ」
俺は自分に言い聞かせながら立ち上がった。
次の日
「お世話になりました」
あいつは頭を下げると、さっさと出て行った。最後まで淡泊な奴だ。
「はぁぁぁ……」
俺は深いため息を吐き、机に突っ伏した。
「大丈夫?」
声の方を見ると、丸い瞳が俺を覗き込む。同僚の女の子だ。彼女も俺と同じ入社一年目で、でも俺よりしっかりしてて…。
「ありがとう…」
俺は無理に笑って答えた。
「あんま…無理しないでよ?」
「大丈夫」
俺がそう言うと、彼女はキラキラの笑顔を見せた。ああ…癒される…。
よし、頑張ろう!
俺は彼女の笑顔で、いつもそう思えた。彼女が笑ってくれたら、何でもできる。そんな気がした。それは特別な感情…なのかな?今はまだ分からない。
でも、他の人とは違う何かを感じていた。
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