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ずっと好きだったのに…君は、私の手の届かない場所に行ってしまう…。
「それではここで、ご友人代表の方から、お祝いの言葉を頂戴したいと思います」
私はその声と共に立ち上がり、壇上へと歩いて行った。そう、私は結婚披露宴の会場にいる。それも、自分がずっと好きだった人の……友人代表として。もう、ここしかチャンスはない。私はそう思った。でも、奪おうなんて思わない。
ただそう、私は……
時は遡ること、15年前。
「水木彩(みずき あや)です、よろしくお願いします」
私は転校生として、この学校にやってきた。人見知りで、引っ込み思案な私は、不安で不安で仕方なかった。
「俺、増田英夫(ますだ ひでお)、よろしくね」
そんな私に、君は初めて声をかけてくれたんだ…。
「あ…」
ぎこちなく頭を下げるだけの、無愛想な私に、ニッコリ笑ってくれた。その時からだ。君は私に、ずっと話し掛けてくれた。
「おはよう!」
「おはよ…」
私は緊張してしまって、いつも返事が素っ気なくなってしまう。それでも君は、全く態度を変えなかった。他の人なら、とっくに話し掛けなくなってるだろうに……。
「おはよう!」
ある時私は、勇気を振り絞り、自分から挨拶した。
「おはよう、君から挨拶してくれるなんて、何か嬉しいな!」
そう言って君は、とびきりの笑顔を見せてくれた。それが私には、とても嬉しくて……私は自然と笑顔になった。
「あ、初めて笑ってくれた」
「そう…かな?」
そう言えば、そうだったかもしれない。
「そうだよ!凄く嬉しい!」
私達は笑いあった。
――特別扱いされてると思わないで
私は思わず振り返った。でもそこには、誰もいなかった。
………今の、何?
確かに君は、私だけに特別そうしてくれるわけじゃない。でも、誰にでもそうするわけでもない。君なりに区別を付けているんだろうけど…。
勝手に特別に感じてるのは……迷惑?
好きになったら困る?
ただ話し掛けてくれる。そんな些細なことからでも始まってしまう恋だから。恋い焦がれ死ぬ、不治の病。盲目に、痘痕も笑窪…そんな情熱的じゃない。でも好き。それだけで良い?理由なんてないの。ただ君と話すのが楽しくて、君といられるのが幸せ。それだけで好き。君の幸せが、私の幸せ……。
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