一輪の花

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私は今、マンションの屋上にいる。死のうと思ってるから。そんなに高さは無い。11階建ての屋上だからな…。でもここから飛び降りたら、うまく死ねるだろうか?下はコンクリート。頭を打てばきっと…。私はそんな風に思った。ぐらりと世界が傾き、身を切る風、近づく地面、全身を駆け抜ける激痛……。 ……? 誰かが私を呼んでる…? ああ…これがお迎えってやつか…。 私はそんなことを思った。 あれ…痛い…? それに…眩しい…? そう思いながら、私は目を開けた。 「花音(かのん)さんが目を覚ましました!」 白い服をきたお姉さんが言った。 「今行く」 同じく白い服を着た、小太りな男の人が言った。ここは病院の様だった。つまり… 「…助かっちゃったんだ…」 誰かが通報したんだろうか? 「『ちゃった』って…近くの人がすぐに救急車を呼んでくれたから、助かったんだよ?」 やってきた先生が眉をひそめて言い、看護師さんの方を向いた。 「ご家族と連絡は?」 私は彼女が答える前に言った。 「いいです、どうせ来ないし」 「まだ取れていません…」 彼女は申し訳なさそうに言った。 「だからいいんです、忙しくて、私なんかに構ってる暇無いだろうから」 うちは、将来を有望視される姉を中心に回っている。私なんか、いてもいなくても変わらない。家族だけじゃない。皆、私以外の誰かがいる。私がいなくても、代わりはいくらでもいる。一人になる人なんかいない。だから死のうとしたのに…。 「そんな風に言っちゃダメだよ」 先生の諭す様な口調がカチンときた。 「私がいなくて困る人なんかいないの!私のこと何も知らないくせに勝手な事言わないで!」 私は思わず叫んでいた。先生はまた眉をひそめて、それ以上は何も言わなかった。それから最終的に、私の家族は誰一人として病院に現れなかった。でも私の怪我はたいしたことなかったので、すぐに退院できた。学校に行っても、松葉杖の私に皆、大丈夫?とまるで他人事の様に言う。大丈夫だったら、松葉杖なんか必要無いと思うのは私だけだろうか?それにその質問は、『うん』と答えるより他に 方法が無い。『大丈夫じゃないかも…』なんて答えようものなら、『じゃあ学校休めば?』と、冷たい反応が返ってくるのだ。さらに、肯定でしか答えられない質問をすることで、この人は大丈夫だから、自分は何もしなくて良い…そんな風に、言い訳が作れる。
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