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私は結局、どこにいても一人なんだ…。
「阿部真里亜(あべ まりあ)です、よろしくお願いします」
長いストレートの黒髪、蒼白な肌、華奢な体……とても健康には見えない。声も細く、弱々しい。そもそも、こんな時期に転校してくるのがおかしな話だ。体調が悪くて、病院と共に学校も転々としているんじゃないだろうか?彼女は一礼すると、一番後ろに設けられた席に就いた。私の隣を通った瞬間、ふっと良い匂いがした。お香の様な、和風の匂いだ。彼女の柔らかい雰囲気に合っている。
放課後、私がいつもの様に帰ろうと、松葉杖で階段を降りているときだ。
「花音さん」
後ろから、柔らかな細い声が聞こえた。
「阿部さん…」
「大丈夫?」
彼女も皆と同じことを聞く。
「ありがとう、大丈夫」
私も同じ様に答える。
「お荷物、下までお持ちするわ」
「え…?」
私は耳を疑った。今まで、そんなことを言う人は、誰もいなかった。
「私も松葉杖を使ったことあるから分かるんだけど、結構大変なのよね」
そう、腕だけで全体重を支えなくてはいけない。下りならまだしも、上りは本当にキツイ。
「だからお持ちするわ」
「あ…じゃあ、これだけ…」
私は彼女の厚意に甘えて、一番軽い荷物を渡した。彼女はニッコリ笑うと、私のペースに合わせて、ゆっくり階段を降りた。
「お家、どちら?」
正門の前で彼女が言った。
「あっち…」
私は自分の家の方を指差した。
「私も一緒だから、近くまでお送りするわ」
彼女はそう言って、ニッコリ笑った。
「ありがとう…」
私は彼女の優しさに、半ば圧倒されていた。まだ知り合って間もないのに、私にとても優しくしてくれる…。
「あ、じゃあ家、そこだから…」
私は家への路地の前で言った。
「はい、それではお気を付けて」
彼女は私に荷物を渡しながら言った。
なんでこんなに優しくしてくれるんだろう?私のこと、そんなに知らないはずなのに……あ。
私は気が付いてしまった。
もしかして……知らないから……?
知らないから…優しくしてくれるんだ…。
私の性格が分かったら…皆と同じ。
私は、また一人。
だったら最初から……。
私はそう思った。
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