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「それに花音ちゃんは、そんなことする人じゃありません!」
彼女は、細い声を精一杯張り上げた。ただ一体、何の根拠があって…?結局犯人は分からず終いで、私はずっと白い目で見られ続けることになった。ただ一人を除いては。なぜか阿部さんは、ずっと私の味方でいてくれた。他の人が話し掛けなくなった代わりに、彼女が随分話し掛けてくれる様になった。
「花音ちゃん」
事あるごとに、彼女が声を掛けてくれる。
彼女は信じても……
私の頭に、そんな雑念がよぎった。
ある日のことだ。
「花音ちゃん…辛いことあったら…私に話してね?」
そう言う彼女の方が、何か辛そうだ。
「何か…あった?」
「………」
彼女は何も答えない。
「話したくないなら…無理にとは言わない…けど…阿部さんも…辛いことあったら、話すんだよ?」
私がそう言うと、彼女は嬉しそうに笑って言った。
「ありがとう…あの…真里亜が良い」
彼女は可愛らしい上目遣いで言った。
「…ダメ…かしら…?」
「あ、ううん」
私は慌てて否定した。
「真里亜ちゃん…」
そして彼女の名前を呼んだ。
「嬉しい…!」
彼女は満面の笑顔で言った。名前を呼ぶだけで、こんなに喜んでくれる人いるんだ……。私も思わず笑顔になった。
「昨日の夜、母が倒れて…ちょっと心配だっただけなの」
彼女は私だけに聞こえる様な声で言った。
「まだ病院に…?」
私が聞くと、彼女は黙って頷いた。
「一緒に病院行こう」
私は思い切って言った。
「うん…!」
彼女は嬉しそうに笑って言った。
「お母さん、今日は友達と一緒なの」
彼女は眠る母に言った。
「はじめまして」
私は聞こえていないのを分かって、挨拶をした。
「花音ちゃんて言うの」
彼女が私を紹介した。
「………」
「え?」
私は思わず声をあげた。
「どうしたの?」
「いや、今…」
私は首を傾げた。今、真里亜ちゃんのお母さんが、声を発した様な気がした。私は鼻や耳が異常に利くときがある。雨が臭いで分かるし、ちょっと性能の悪い携帯なら、2万4000ヘルツくらいまで聞こえる。空気の振動に敏感なのかもしれない。誰にも聞こえない音を聞き取ったり、声が聞こえたりする。ただ、科学的根拠ゼロの第六感なんかとは一瞬にされたくない。
「気のせい…かな…?」
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