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「おはよう」
いつもと変わらない景色と匂い。
「良い天気だね…窓、開けようか」
そしていつもと変わらない、俺の独り言。君から返事が返ってきたことは無い。君はずっと、眠り続けている。
「風が気持ち良いね」
窓からの風に、背中まである綺麗な髪がなびく。頬にかかった髪を避けてあげると…暖かい…。その肌の暖かさを感じる。
その体温だけが、君が生きてることを証明する、唯一のこと。君の声が聞きたい…ほんの少しで良いから…。俺はそっと手を握った。俺は君に、何もできない。何もしてあげられない。でも、絶対にこの手は離さないから…。だから笑ってほしい…。君の笑顔で、俺は強くなれるから…。笑うとできるエクボと八重歯が愛しい。
「愛してる…」
例え目覚めなくても…。ねぇ…俺の声、聞こえてる?こんなに傍にいる俺を感じてる?俺の体温は、君に伝わってる?
――ゴメンね…
そう言って涙を流す君が蘇る。
ねぇ、どうして君はあの時、泣いてたの?
知ることが叶わない今でも、俺は考えていた。病は時と人を選ばない。だから、君が謝る必要も、君が泣く必要もないのに……。
「おはよう」
俺は今日も声を掛けた。返事は無いけど、聞こえてることを信じてる。君には今、どんな景色が見えてるの?その閉じられた瞳の奥に、俺は映ってる?きっと俺達は生まれ変わってもまた出会う。そんな奇跡も起こせる。でも、君とこうしていられる今が、何よりも大切って思う。だって君と俺が出会ったら、また恋に落ちる。それでも俺は俺じゃなくて、君も君じゃない。でもさ…もし出会えたら…今度は俺が君を元気にしてあげたい。何度だって手をとって
『愛してるよ』って…
あれ…?
窓から吹く風になびく髪、長い睫毛が綺麗で…俺には、君が少し笑って見えた。気のせい…かな。
ねぇ…君の声を少し聞かせて…。
――愛してる 愛してる 愛してる
~眠り姫 Acid Brack Cherry~
超短編ですみません〓
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