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-その娘は恋をしていた。
そして娘の想い人は夏、村へやってくるのだった。
夏が訪れれば、今か今かとその日を待ち侘び、夏が過ぎれば次の夏の日を胸を焦がして待ちわびる。
しかしそれは決して報われない恋であった。
父から、奴とは住む世界が違うのだから、あきらめなさいと言われ、
お嬢、素性を知れば普通の奴なら逃げ出しますぜ?と一家の者にも言われる始末。
-わかってる。そんなこととうに分かっているのだ。
だがー
娘は非常に美しかった。しかし素性を知れば普通の者は、慌てふためき逃げていくのであった。
それでも娘は想い人ができるとその胸の内を明かさずにはいられなかったのだ。
そしてまた夏がやってくる-
彼もまたここへとやってくる-
そして今度こそはと、彼と出会ったその砂浜で、娘は胸の内を明かす。
驚いたような顔をしたあと彼はー
逃げなかった。そして微笑みかけながら娘にこう言った。
「嬉しいけれども君と僕とでは住む世界が違うよ。」
男は人間で、
娘は人魚だった。
男は陸に住み、
娘は海に住むのだった。
文字通り住む世界が違うのだ。
男はよそ者で知らなかったが、
この村では人魚が歌で人を惑わし肉を食むという逸話がある。
翌日それを聞いた男は二度とこの村を訪れることはなかった-
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